· 

自分の店=社会の一部


20172月。公共交通機関を利用しての通勤は大変でしたが、

元上司が誘ってくれた職場でようやく働き始めました。

ですが、数ヶ月すると元上司は異動してしまい、違う方と代わってしまいました。

嫌な予感…私はアルバイト。ほどなくして私と同じ仕事をする人が別部署から

やってくるようになり、そして予想通り「辞めてもらいないか」と。やっぱりね。

予想はしていましたが、やはり悔しかったです。

この時の天気や相手の表情は今でもしっかり覚えてますね。

だけど反面「よーし、やってやるぞ!」とも思いました。

 

以前から「自分の店を持つというイメージ」は、私の片隅にありました。

入院していた頃、もう以前の職場には戻れないだろうと思っていました。

だから妻と「自分で店でもやるか」なんて話していたんです。

この頃ちょうど自宅近くの商店街で、かなり安くテナントに入れるかも?というお話もあり、

じゃあ本当に自分の店を出すとして、自分がどれだけ動けるのか?

まずは確認しなきゃと思ったんです。

そんなわけで親戚のいる愛媛県松山市まで、車いすで一人旅をしてみました!

四国で漁獲された最高の魚を手に入れるために、動いてみよう!

 

千葉県流山市の自宅から、船に乗るため東京湾に電車で向かうも道を間違えて。

「出航時間に間に合わない!」と、タクシー待ちで並んでいる人たちにお願いして

先に乗車させてもらい。ギリギリ間に合って、船で徳島港へ。

翌朝下船し、鳴門海峡で渦潮を鑑賞。夜にはブログで友達になっていた人と

実際に待ち合わせをして、居酒屋で楽しいお話。翌日、目的の愛媛へ行こうと

バス乗り場へ行ってみると、車いすでは乗れないタイプのバスばかり。

仕方なく電車で松山に行き、親戚のオバちゃまが道後温泉に連れてってくれたけど、

そこでも車いすでは入れないので眺めただけ。

まぁ温泉街は堪能できたし、美味しい食事をご馳走してもらい。数日おじゃまして、

飛行機で帰ってきました。よし、電車、船、飛行機を使ってひとりでどこへでも行けた!

 

さて、車いすの自分が店を持つとして。

自分が働くのだから、厨房を広くしなければならない。

当然バリアフリーでなければならないし、多目的トイレも必要です。

ただ店を開くだけなら、無理してそうしなくていいのかもしれません。

でも、自分が働く店だからこそ障害者もお年寄りも利用しやすい店になるはずです。

 

一般的には店を開くにあたって、まず客層を想定します。

どんなお客さんが来店するお店にするのか、それは大事なポイントですよね。

しかし私はその正反対ともいえる、誰もが使いやすい店を目指しました。

私がお店をやるのは儲けるためではありません。人をごちゃ混ぜにするためなんです。

障害者も健常者もさまざまな人たちが集まる場所になれば、そこで交流が生まれて、

障害に慣れるだろうと考えたんです。

 

そんな話を友人、知人、SNS で知り合った人などに伝えたり、入院当初に始めた

ブログに書いたりするうち、それまで接点のなかった人たちからもメッセージが

届くようになってきました。 その中に「クラウドファンディングをやってみたら?

というコメントがあったんです。 なるほど、やってみよう!

 

今でこそ皆さんクラウドファンディングはご存知だと思いますが、

あの頃の私はあまりよく知らなくて。まずはとプロジェクトを作って、すぐにスタートしたんです。

ブログではやめた方がいいとかなんだとか、いろんなことを言われましたが。

確か期間は ヶ月間で、目標の 180 万円に達しなければゼロになってしまう All or Nothing 方式でした。

この他にも、目標金額に達成しなくても期間終了日までに集まった金額を獲得できる All in 方式があります。

 

「プロジェクトを成功させるには、もっと自分のことを知ってもらう必要がある」と考えて

どうにか知ってもらえる手はないか、と市長に相談してみたところ、

人が集まるイベントを教えてくれて、運営の方々を紹介していただく事になりました。

そのイベントに自分の宣伝ブースを作ってもらい、自分で自分のチラシを作って参加したんです。

するとそこで、たくさんの人と話ができました。

そして自分からも、他の出展者ブースに行って野菜を販売してるおばちゃんたちと話をしたり。

このとき出会ったおばちゃんたちは、今も店に来てくれています。

他にも「これはこうした方が良いのでは?」とズバリ意見を言ってくれる人など、

とても大切な人たちとの出会いがそこにありました。

さらにそのイベント終了後も、運営の方々が地域新聞に自分のことを掲載してくださったりもして

このイベント参加をきっかけに、一気に自分を知ってもらうことができました。

 

その後も、近隣で活発に市民活動をしている方から「話をしたい」と連絡をいただき、

お会いしてみると「クラウドファンディングを見たんですけど、どう考えて動いてるんですか?

「人と話をしないとダメだと思いますよ。最低でも 100 人は」などなど、

クラウドファンディングについてよく知らなかった私に、いろんなアドバイスをくれました。

この方たちも、今も私の店を利用してくれています。

 

さらに12 月になると朝日新聞から取材依頼。地域欄に大きく載って、

今度は bayfm から出演依頼!! イベント参加、というひとつの行動をきっかけに、

自分にどんどん追い風が吹いているのを感じました!

そして 100 万円ほどまで行きましたが…残念ながら達成できず「Nothing」でした。

しかし自分の名前が広まったのは大きな収穫でした。

クラウドファンディングは達成できませんでしたが

「金子淳一郎」という名前を知っている人が、少しずつ増えていったんです。

 

年が明け、2018 年を迎えてからも引き続きいろいろと連絡をいただきました。

そんな中に宣伝の手腕に長けた人たちがいて、私のチラシを作ってくれました。

「知り合いを増やすなら、Facebookの友達申請を使うと良いのでは」と

教えてくれたのも、その人たちなんです。

 

ブログと Facebook 、この辺りでこのふたつの違いについてわかってきました。

ブログは自分のことを自分の言葉で書く「自分の部屋」です。

私の部屋にはいつも「いいね」が 300 以上ありました。そこには私と同じような境遇の人、

つまり障害者の方が多くいて、そういう人たちからはたくさんの応援をいただく反面、

部屋の外側=社会に対してネガティブなコメントも多く見られました。

SNSFacebook は「社会」です。 そこでは私は「大勢の中のひとり」となります。

障害者だけで集まっているわけではなく、いろんな立場の人がいました。

いろんな意見がありました。だから社会の反応が見えたんです。

 

そしてFacebookは、実際に会える方が多かったのも特徴だと思います。

資金協力をしてくださった方々が実際に店に来てくれたりして、

頭を下げて直接お礼を言うことができました。

実際に自分の料理、商品の写真を載せて、実際に召し上がっていただく。

Facebookはその名の通り、顔の見える関係性と

リアルなつながりを作りやすいSNSだと思います。