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gente vol.014 Interview:大平 英一郎さん/生活介護施設勤務

CA.SOLUA チーム代表【ロービジョン(弱視)】


「なんで俺だけ?」って、思ってたけど。

 公園で子どもたちと休日を過ごす男性。ボールを投げたり走り回ったり、元気よく遊ぶ二人の子どもたちには、楽しそうな笑顔が浮かんでいます。ですが彼には、その表情がよく見えないそうです。
 大平英一郎さんはロービジョン(弱視)、つまり「見えてはいるが、見えにくい」という視覚障害を持っています。視覚障害というと、まったく見えない「盲」のイメージが強いかもしれませんが、実は視覚障害者の8割以上が「見えない」ではなく「見えにくい」ロービジョンです。大平さんは子どもたちの相手はできても、その見えにくさゆえに「あれ何?」といった問いかけにすぐ応えられなかったり、セミの声は聞こえても姿が見えないので捕まえてあげられない、そんな歯がゆさをしばしば感じてきたそうです。
 視野が狭くなる狭窄や、視野の一部が欠ける欠損など、さまざまな見え方があるロービジョン。vol.014では大平さんに加え、所属するロービジョンフットサルクラブ『CA.SOLUA』の選手やスタッフの皆さんにも、ロービジョンとはどんなものか、お話を伺ってきました。

わからなかった、自分も周りも


g:まずは見え方から確認させてください。
大平:全体はぼんやり見えていて、中心がより見えにくい状態です。自覚はないんですけど、視野検査をすると数値で出るので。裸眼の視力が0.04くらいで、裸眼では近づくほど見えます。眼鏡をかけると0.1くらいまで上がって遠くは見えるんですけど、逆に近くが見えなくなっちゃう。だから文字を見るときは裸眼、サッカーするとか遠くを見るときは眼鏡と使いわけてます。
g:眼鏡で矯正しきれないんですね。本や新聞はどのぐらい近づけば見えますか?
大平:かなり近いですよ。スマートフォンだとこれくらい。(下画像参照)

 

 

 

g:本当に目の前ですね。それくらい近くなら、ある程度はっきり見えるんですか?
大平:いや、漢字とか画数が多い文字はちょっと潰れちゃって見えないですね。
g:お子さんと遊んでいる様子を拝見していると、投げられたボールはキャッチできていましたよね。
大平:物が動いているのは見えるんで、それに反応してる感じですかね。
g:お子さんは6歳と4歳の元気な盛りで、目が離せないと思うのですが。
大平:キツいですよ。賑やかな公園とか行って、よその子がいるともうわかんないです(笑)。だから二人一緒に動いていればずっとついていって見てるんですけど、二手に別れちゃった時は妻と手分けをして。
g:この距離(5m程度)なら、動いているのはわかるんですよね?
大平:今日は赤い服だからわかりやすいんですけど、同じような赤い服の子が他にいたら、それがうちの子か見分けつかないです。僕は顔も見えてないんで、あれがうちの子じゃなかったら自信ないですね。だから特徴的な服を着せたり帽子かぶせたりとかもするし、子どもたちには「見える範囲にいてね」ってお願いしています。
g:お子さんたちは理解してくれていますか?
大平:わりと。最近はあえて白杖を使ったりして「他の人とはちょっと違うんだよ」ってわからせるために持ったりとか。
g:基本的に白杖は必要ないですよね?
大平:慣れている場所では全然使わないんですけど、初めて行く場所とか人が多い場所だと、僕が不便をしなくても周りの人に迷惑かけちゃうこともあるんで。交通量が多い所で人にぶつかっちゃったり。
g:足元や進行方向を探る使い方とは違って、周りへのアピールなんですね。視覚障害がありますよ、という。
大平:僕は完全にそれですね。だから振ったりはせずにただ持ってます、杖をつくみたいに。それだと堂々と買い物もできますし。商品にすごく顔を近づけて見ていると変に思われるし、食品だとかは衛生的にも良くないって思われるし。それでお互いに安心できるっていうか。
g:白杖を持っていても少しは見えてるんだな、と見てもらえると。それは以前から?
大平:障害者手帳と白杖を申請したのが5年前で、白杖使い始めたのはここ1、2年?
g:それまでは手帳も白杖も持ってなかったんですね。なぜそのタイミングで手帳を取られたんですか?
大平:妻が「手帳取れるんじゃない?」って言ってくれたのがきっかけですね。僕は当事者でありながら、視覚障害者って全盲の人を指すものだと思ってたんです。だから弱視ってものを知らずにきちゃったので(笑)。小さい頃から「ただ目が悪いだけ」と思ってたんで、それが障害云々っていうのは全然、結びつかなかったんです。ロービジョンフットサルも、妻が教えてくれたんですよね。
g:障害とは思っていなかったと。とはいえ困り事はいろいろとあったでしょうね。

 

「どうしようもないじゃん、僕はこれだから」

 

大平:ありましたね。混んでる所に行くと人にぶつかったり買い物しづらかったり、それはどうしようもないなって感じだったんです。「どうしようもないじゃん、僕はこれだから」って開き直っちゃってて。「なんで大平は挨拶しないんだ、無視するんだ」というのもありましたし、障害とわからなかったことによって学生生活は結構大変でした。常に一番前の席に固定されていて、それでも黒板に赤とか青で書かれちゃうと見えないんですけど、周りの人がすごく助けてくれました。隣の席の子がノート見せてくれたり、友達には恵まれて。先生が板書してる間にさっと見せてくれて、それを写してすぐ返すとかね。ただ友達も書くのに必死で貸してもらえない時は、休み時間削って写したこともありましたし、次の時間が移動教室とか体育で着替え、となるとそっちに時間取られてノートが追いつかなかったりとか。高校ではそういうのが多くて授業に追いつけなかったんで、先生に「もう少し板書を遅くしてくれ」とか「もうちょっとキレイに書いてくれ」と頼んでもみたんですけど、「君だけにそういう配慮できない」って言われちゃって「じゃあどうにもできないな」って。なんで俺だけ、休み時間まで削ってこんな苦労しないといけないの、ってずっと思ってましたね。だからその時に障害とわかっていたり、手帳があれば配慮してくれたかもしれないな、とは思いますね。

自分には「できる」でも


g:見えにくさは就職にも影響しましたか?自分が視覚障害にあたるとわからないまま、就職活動をしたわけですよね?
大平:保育士になりたくて、資格は取れたんですけど結局は目が原因で諦めたんです。子どもの表情とかそれが誰かって、離れてしまうとわからないんです。近寄ればわかるし、パっとわからなくても動き方とかでなんとかわかるんで、カバーできるかなと思ってたんですけど、保育実習先でそれを指摘されちゃったんですよね。僕としては感じなかったんですけど、「何かあった時に対処できる?」って言われちゃうと、子どもの安全もあるし難しいんだなって。
g:それまでは、視力が就職に影響するとは思っていなかったんですね。
大平:まぁ目は悪いけど近づけば見えるし、雰囲気で察することもできると思ってるんです、今も。でも第三者から見てそれはネックになる、と言われてしまうとどうしようもないじゃないですか。何かあったら絶対そのせいにされちゃうし。だから諦めましたけど、じゃあ自分の視力で何ができるか、とは考えて。結局ゼミの先生の紹介もあって、目の悪さを踏まえて採用してくれた障害児関連の事業を行なっている社会福祉法人に入ったんです。配属されたのが小さな事業所で、1対1で利用者さんと関わるので距離も近いし、僕の見え方には合った仕事かなと思いました。ただ福祉の仕事って送迎で運転免許が必要な場合も多いんですが、そこはごめんなさいって感じです。
g:運転は仕方ないですよね。ではオフィスワークや書類作成などはどうですか?
大平:PCは画面に近づけば見えるし、まぁ問題なく。あ、でも誤字脱字が多いのはしょうがないのかな(笑)。
g:見え方については、職場の方々は把握してくれているんですか?
大平:理解してくれています。最初の職場は「目が悪いんです」と伝えたらA4の資料をA3に拡大してくれたり、理解ある職場でした。今の職場も僕の目の悪さをわかった上で雇ってくれたので、不便があれば言えるし配慮してもらえる環境は整えられたかなと思います。
g:一般雇用ですよね。手帳を取得して、障害者雇用もひとつの選択肢だと思いますが。
大平:そうですね。選択肢としてあるのは大事だと思ってます。ただ別に一般雇用で仕事できるんだったらそれでいいんじゃないかな。あとは自分が障害者雇用で入っても、それほど配慮も必要ないっていうか。僕としては(配慮は)人と人とのつながりで自然にやってもらえれば充分なんですよね。今の職場でも特別な配慮はないですし。その都度「見えないからこれお願い」と頼める関係を作る方が僕にとっては大事だし、充分それで事足りてるんで。

【note:ロービジョン弱視)】
視覚障害でも盲とは違い、不便さはありますが視力を活用できるので白杖や点字を必要としない人や、仕事や生活面において特別なサポートを必要としない人も多くいます。一方でサポートがなくても行動できる人は、周囲の人に本人が感じている見えにくさが伝わらず、視覚障害があると理解されにくいという側面もあります。
【ロービジョン/Low vision】
残存視力はありますが、生活に不便さがある見えにくさです。矯正できない低視力、視野狭窄や欠損などさまざまな見え方の総称です。
【盲/Blindness】
視力はほぼなく視覚を活用できません。光も感じない全盲のほか、明暗の判別はつく光覚、目の前の物の動き程度は認識できる状態も盲に含みます。
【大平さんの見え方イメージ】
色や明るさはわかります。輪郭がはっきりせず視界全体がぼやけている状態で、中心部がとくに強くぼやけています。

仲間と居場所と


g:ロービジョンフットサルをはじめるまで、何かスポーツ経験はあったんですか?
大平:小学校の6年間はサッカーやってたんです。その後バレーボールをやってたんで、スポーツはずっとやってますね。まぁバレーボールでいうと、ちょっと高く上がったボールとか速いボールは見えにくいとかはありましたけど、それでも人並みにやれてたんじゃないかなと思います。で、はじめは他のチームでロービジョンフットサルをやってたんですけど、岩田(チームメイト・CA.SOLUAキャプテン)から「新しいチーム立ち上げるから一緒にやろう」と声をかけられて。それで彼を中心に、一緒にCA.SOLUAを立ち上げたんです。
g:ロービジョンフットサルは見え方を揃えず、それぞれの見え方のままプレーしますよね。誰々はこういう見え方、と選手同士は把握しているんですか?
大平:ですね、お互いの見え方は把握しておかないと。今ピッチにいるのは誰と誰だから、誰にはこういうボールでないと、とか考えながらプレーしてますね。もっと見えにくい人はそもそも誰がピッチにいるかもわからないみたいですけど。僕の場合は走り方とかでなんとか「誰が入ってるな」ってわかるんで、相手に合わせたボールは意識してやってます。あとは声かけですね。相手によっては必ず声をかけてからボールを出すように、とか。難しいんですけど極力。とくに見えにくい選手には意識してます。
g:とはいえかなり激しい動きですから、選手同士ぶつかったりもしますよね?
大平:それはありますよね(笑)。僕自身は見えているから大丈夫だと思ってたんですけど、相手が見えていないから、もらい事故じゃないですけど(笑)。ボールも転がっていればいいんですけど、浮き玉はみんな大変そうですね。とくに見えにくい選手の場合だと「なんでボール避けないの?」ってシーンもありますよ(笑)。

 

「チームはみんなが安心できる、居場所なのかなって思います」

 

g:どうしてもそういう部分はあると。それでもプレーは続けたいんですよね。
大平:ですね、やっぱりみんなの居場所にもなっているんじゃないですかね。楽しいし、あるがままでできるスポーツだし、居場所でもある。晴眼者(視覚に障害なくものの見える人のこと)に混ざってフットサルをやるとなると、気を使う面も多いし自分が「やれてない」って劣等感のようなものも感じてしまうので。当事者同士のスポーツは安心できる居場所だったりするんじゃないのかな。なかなか同じ境遇の人たちとの出会いも少なかった、僕はですけど。だから「なんで俺だけ」と思っていたんですけど、同じような境遇の人が他にもいると知ってうれしくもあり、「俺より苦労してる人、いっぱいいるや」とも思ったり。
g:晴眼者のチームと対戦もあるそうですね。特別なボールやルールも必要なく、皆が今ある視力を活かしてプレーできるのがロービジョンフットサルの魅力ですね。
大平:でも、まだまだ知られていないんですよね。だからブラインドサッカーに行っちゃう弱視の子も多いし、僕がそうだったように弱視と気づかず生活してる人は、晴眼者に混ざってサッカーしてる人も多いんじゃないかなと。
g:それは残念ですよね。CA.SOLUAではロービジョンの子ども向けのサッカースクールも開催されているそうですね。
大平:始まったばっかりで、僕はまだあまり参加できていないんですけど、みんな楽し
めてるって聞いてます。見えにくさのある子の選択肢が広がるといいんですけどね。
g:見えにくくても、見えている。その見え方を活かせるスポーツですしね。
大平:そうそう。ロービジョンフットサルを知らずに、選択肢がブラインドサッカーしかないからそれを選ぶ、となってしまうのは悲しいなって。

視覚障害者の8割以上がロービジョンと言われていますが、大平さん自身がロービジョンを知らなかったように、その認知度はまだまだ低いのが現状です。ロービジョンについての認識がもっと広がれば、それぞれの見え方にあった生活や仕事、余暇をすごせる当事者が増えていくでしょう。
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