· 

gente.web Latest interview

gente vol.025 Interview:

竹内 将太郎さん アクセンチュア株式会社【サテライト勤務】うつ病/気分障害


うつになっても、「詰み」じゃないんです。

まさか自分が

「私自身、自分がうつ病になるとは思っていなかったんです」と語るのは、取材を受けてくださった竹内将太郎さん。うつ病が特別な病気ではなく、誰しもそうなる可能性があるとの認識は充分広まっていますし、精神疾患による労災認定が過去最高(※1)を更新する中、うつ病を経験した人が身近にいる方も少なくないでしょう。とはいえ「精神疾患は他人事」と考えている人もまた、未だ多くいるでしょう。

「自分が特別ではないですし、小さな歪みから誰でもなる病気だとあらためて感じました」と竹内さん。当事者となって知った、本当の辛さや病気に対する偏見について語ってくださいました。また障害者雇用を選んだ理由、再就職の準備期間に役立った行動についても伺っています。

竹内さんの勤務先でスーパーバイザー(以下SV)としてサポートする西村愛さん(写真右)にも同席いただき、サテライト(詳細別画像)について取材。さらにアクセンチュア本社でサテライトの生産性向上施策と、世界的に高い評価を受けているI&D(※2)について伺うと、見えてきたのは企業の理論と共存する実にシンプルで誠実な姿勢、人と向き合う企業風土でした。

※1)厚生労働省調べによる

※2)一般的にはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)。アクセンチュアではI&Dと呼称しています。多様性を組織に組み入れ活用すること。さらにDE&I(E=公平性)、DEIB(B=帰属性)と、新たな要素を取り入れ日々概念がアップデートしています

絶望から始まる朝を越えて


「うつ病などの心の病気には完治というものがなく、長期的に安定した寛解(※3)を目指していくんですけど『うつ病になったらもう治んないんでしょ』『詰んじゃってるよね』などと心ない言葉をかけられて、偏見を感じましたね」と竹内さん。「寛解して仕事復帰している方はたくさんいますし、少しでも偏見をなくしていければ」との思いから、ご自身の経験を語ってくださいました。

 

竹内:新卒で働きはじめて、一か月足らずで不眠とか過度な発汗、あとは焦燥感みたいなものが出てきていました。当初は「うつ」というものに自分がなる、という発想がなかったので、まずは身体の症状を疑って内科を受診したんです。でも身体の異常はなくて、メンタル面の不調じゃないかと言われまして。それで心療内科に行ったんです。

 

g:うつ病だとは、思いもよらなかったと。

 

竹内:「まさか」と思いました。でもストレスはかなり感じていたので、身体の異常がないのであればやはりストレスから来る何かなんだろうと、ぼんやりと思っていたんですけど。まさかうつ病と明確な診断名がつくとは、想像していなかったですね。ちょっとしたストレス状態、くらいなイメージで。

 

g:明確な診断名を告げられて驚いた。

 

竹内:最終的に診断がついた時は、正直納得というか「やっぱりそうだったんだ」としっくりくる、ほっとする感があったのを覚えていますね。最初にあった発汗、動悸といった身体症状よりも、ベッドから起き上がれないとか、よりうつ病らしい精神症状がどんどん悪化して、仕事を続けるのが難しくなっていったので。

 

g:それが2017年頃ということで、既にうつ病は珍しい病気ではなかったかと思いますが、病気の知識はありましたか?

 

竹内:症状として身体が動かない、起き上がれないというのは当時も知っていたんですけど、それがどういう感覚なのかは全く想像できていなかったです。自分がなってみて「なるほどね」という感じでしたね。

 

g:それはどういう感覚なのでしょうか。

 

竹内:なんでしょう、感情が鈍麻するというか、頭の中にモヤがかかったような感じですね。ひとつひとつの思考に重しが括り付けられているような、非常にスローな感じになるんですよね。スッキリとスムーズに物事を考えることはできなくなりますし、 スピーディーに仕事をこなすことももちろんできなくなりました。朝が一番しんどいというのは私も例外ではなくて、起きた直後、既に疲労困憊で身体が重いしだるいし、本当に酷かった時はベッドから這うように出る感じだったのをすごく覚えています。気持ちの面でいうと絶望感、悲壮感みたいな、生きていても何ひとつ希望がないような気持ちで、味わったことのない、本当に底辺にいるような感じでしたね。誰しも大切な人やペットを亡くしたらすごく悲しいと思うんですけど、朝、そういった感情と一緒にスタートする感じと言ったらいいんですかね。ものすごく悲しいし、何も希望が見えない状態で一日のスタートを迎えると考えてもらえると、経験がない人でも「それはしんどいね」と想像できるんじゃないかなと思います。心療内科で「もう休職しなさい」と診断されたので、診断書をいただいてまず一か月休職したんですけど、それではやはり復職できず、もう一か月、もう一か月と休職を継ぎ足し継ぎ足し六か月間休職しましたが、結局復帰できず退職となりました。

 

g:働き始めて間もなく発症しているわけですから、原因はやはり仕事ですか?

 

竹内:バイヤーに興味があって、アパレル企業に入社したんです。まずは店舗で経験を積む必要があるということで、新卒で店舗配属されまして。社会に出ること自体にも強くプレッシャーを感じてしまっていたのかなと思っているんですが、それとは別に上司が非常にパワハラ気質な人で「死ね」「殺す」とか言っちゃう人だったんです。新卒のプレッシャーを抱えている中で、まさか常態的にそんなことを言われるとは思ってもみなかったですし、「今時こんな人いるのかな」ぐらいな感じでした。それと、うつ病になりやすい人の性格傾向もあると思うんですけれども、私の場合は自己肯定感が低かった部分と、不安を感じやすい性格だったので、それもあったのかなと思っています。それは主治医からも言われましたね。

 

g:酷い環境でしたね…。かなり辛い症状だったようですが、それは通院や服薬によってすぐに改善していくものなんですか?

 

竹内:本格的に治療となると、抗うつ薬をいろいろ試す(※4)んですけど、自分に合うお薬が見つかるまでにはまあまあ時間がかかった記憶があって。様子を見ながらいろいろ試していくんですけど、最初に処方されたお薬は効きすぎちゃって、より眠気やだるさが強くなってしまったので。なので自分に合うお薬が見つかるまで、先生と体調の相談をしながら「この薬で続けてみよう」となるのに一、二か月はかかったんじゃないかなと記憶しています。

 

g:薬が決まりさえすれば、あとは順調に?

 

竹内:そうですね。そのまま通院と服薬を続けて、再就職の活動をはじめられたので。治療としては良好だったのかなと思います。

 

※3)症状が継続的に軽減または消失し、生活に支障のない状態。精神疾患は症状消失後も予防的服薬や経過観察を行う必要があり、再発の可能性もあるため完治という表現は使われません。

※4)抗うつ剤は成分と効き方によって種類がありますが、どのタイプの薬が有効かは個人によって違い検査や診断で判別できないので、実際に服用して効き目を見ながら種類や用量を判断するのが通例です。

竹内さんが勤務するのは一般事務を行うサテライト(詳細別画像)で、障害者雇用社員の一部はここに出勤しています。現在はサーベイチーム、翻訳チームのリーダーとして主にサーベイ、翻訳業務を担当、週5日フルタイム勤務しています。

週1回30分の面談と小休憩の時間が確保されており、何かあればSVに相談できる環境なので、安心感を持って働けているそうです。


note.【うつ病:不安障害

 

うつ病は気分障害の一種で、日本人の約6%が経験している精神疾患です。初診から6ヶ月以上経過すると、精神障害者手帳を取得できます。精神障害者手帳は2年ごとの更新があり、症状が改善・寛解したり、手帳が不要になれば返還できます。

眠れない、強い倦怠感などの身体症状や、気分が落ち込む、何をしても楽しめないなどの精神症状が現れ、日常生活や行動に支障が生じます。主に精神的ストレスが発症原因と考えられていますが、実は明確にはわかっておらず、誰にでも発症の可能性があります。期間をかけて適切な治療を受ければ、多くの人が寛解します。


自分を見つめて、あらためて


 

 

g:体調が回復して再就職されたものの、長く勤めることはできなかったんですよね。

 

竹内:アクセンチュアに入る前、一年ほど就労移行(※5)に通所したんですけど、そこに通い始めるまでの期間はなかなか自分の病気、障害と向き合いきれずにいました。就職しては病気が悪化して辞め、休養してはまた就職、という繰り返しでした。

 

g:何故うまくいかなかったんでしょう?

 

竹内:当時の主治医は「一般就労で復帰できる」という見込みを持っていたので、私も手帳を持って働くことは考えていませんでした。それで病気を伏せて再就職をしたんですけれども、度を越した残業量や職場の人間関係など、職場毎に違いますがさまざまな物事が自分にとって「不安の引き金」となってしまって、体調悪化に繋がって結局退職に至る、という状況でしたね。そのままの状態でまた休んで、また就職活動してという繰り返しでは難しい、何かやり方を変えなきゃ、と調べた中で、就労移行支援事業所という存在を知り、通ってみようと思ったんです。当初は障害者雇用までは考えていなくて、そこで自分をしっかり見つめ直す期間を設けた上でまた一般雇用で、と思っていたんですけれども、通っている期間に「障害者雇用も悪くないな」と考えを改めたんです。障害者雇用で働いたからといって一般就労に戻れないわけではないですし、何よりも自分にとってトッププライオリティーだったのは、長期的に安定した就労を目指すことだったので、一般就労にこだわる必要はないなと。障害者雇用でサポートを受けながら長く働けるのであれば、それでいいと思いました。

 

g:初めから障害者雇用を見据えていたのではなかったんですね

 

竹内:ジョブトレーニングや就職支援ももちろんあったんですけれども、一番の通所動機は自分自身の性格や気質の部分を見直す必要があるな、というのが大きかったですね。自分の性格と向き合って、それをポジティブなものに変えていくとか、そういう自分の内面との向き合いと改善は大きかったです。自分自身を学習するというか、運動したり日記を書いてみたり、いろいろ模索した時期だったと思いますね。

 

g:自分を見直すために取り組んだプログラムとは、具体的にどんなものですか?

 

竹内:認知行動療法に根差したトレーニングで「あなたは誰々にこう言われました、こういう態度を取られました」みたいな状況が挙げられて、それに対してあなたはどう思いますか、とまず書き出します。で、それぞれ発表しあいながら「でもそれは別の見方、別の考え方もできませんか」と、他の視点から捉えていくんです。自分のアプローチにある認知の偏り的なものを書き出して可視化し、別の見方ができるように変えていくプログラムでした。

 

g:自分の考え方を別の視点から客観視し、それまでとは違う、物事に対しての新しいアプローチを身につけていくんですね。

 

竹内:自分はそういう部分に問題があると思っていたので。日常生活でもやってよかったアプローチがあって、毎日箇条書きで日記を書くんですが、書いた内容をネガティブに終わらせず、必ずポジティブに終わらせるんです。例えば人からアドバイスやお叱りを受けた時、捉え方によっては「叱られた」にフォーカスしすぎてネガティブに終わっちゃうと思うんですけど、そこで終わらせず「次から気をつけようと思えた」とポジティブに終わらせます。それは自分の認知の歪みをフラットにするのに、すごくいいアプローチでしたね。

 

g:自分を見つめ直し、改善できたんですね。

 

竹内:角が取れたとは思いますし、物事の捉え方という部分ではだいぶネガティブに寄っていたんだなと思いますね。物事を俯瞰して見られるようになって、結果的にネガティブばかりにいかなくなったと思います。当時はお仕事がなかなか続かなくてどうしようと思っていたんですけど、一旦立ち止まって就労移行に通って、自分を見つめ直す時間をとって良かったなと。それがなければ今の自分はないと思うので、いい選択だったと思っています。

※5)就労移行支援事業所は一般企業での就労を希望する障害者を対象に、就労に必要な知識や職業訓練、および就労支援を行う障害者総合支援法に基づいた福祉サービス施設。

安心感から前向きに


ここからはSVとして竹内さんをサポートする西村さんもご一緒に、お話を伺いました。

g:竹内さんの入社当初、合理的配慮や調整の要望などはありましたか?

 

西村:竹内さんは入社当時から、配慮事項や要望がほぼない状況でした。このため「配慮事項について自分から発信ができない人かもしれない」と心配したくらいでした。

 

g:竹内さんに限らず、一般的な配慮事項や要望にはどんなものがありますか?

 

西村:多くのメンバーが活用しているのは小休憩ですね。特性上、気圧の影響を受けやすいとか、疲労を感じやすい人もいれば、過集中になって夕方に疲労が強く出てしまう人もいるので、小休憩を取得する人は多いです。あとは感覚過敏に関するものですね。例えば聴覚過敏の人がイヤーマフ(※6)を利用したいけど、側から見て何をしているのかわからず、周りの人が声をかけにくいので、他の人が見てわかるようにした上で利用してもらうとか。皆特性が異なりますし、アクセンチュアは自分たちの環境を自分たちで作っていくカルチャーがありますので、改善につながる意見を言える場所を設けています。

 

g:合理的配慮を提供するためには、本人が自分の配慮事項を把握し、共有できることが必要だと言えますね。

 

西村:そうですね、特に精神や発達・知的障害の方は外見からわからないこともありますので、ご自身からの発信が重要になります。

 


【サテライト】

 本社や拠点から離れた通勤しやすい場所に設置され、働きやすさに配慮されたオフィスを総称して「サテライト」といいます。一般的には担当する業務によって支社や営業所と区別し、それに当たらないものをさします。

 

【障害者雇用向けサテライトオフィス】

オフィスサービス事業者が、障害者雇用向けに運営する共同利用オフィスです。障害者の利用を前提に作られている施設なので、バリアフリー環境が整っている上に通勤負担も少ないのが特徴です。運営事業者の専門スタッフが常駐し、利用者サポートをサービス提供しているため、単独での合理的配慮の提供、環境整備が難しい企業でも障害者雇用を推進できる施設として注目を集めています。

 

スーパーバイザー西村 愛さん

障害者雇用社員のスーパーバイザーとして、業務管理のほか各メンバーの体調管理、相談などを担当します。西村さんはサテライトの運営全般、採用から入社受入、トレーニング、配属後のキャリア形成まで幅広く担当。チーム体制構築や社内業務受入など、業務面でもサテライトを管理しています。 


g:就労移行は施設支援員からの情報共有や、就労後のフォローもありますよね。

 

西村:そうですね、入社後半年ほどは就労移行の支援員も交えた定期面談を行っています。竹内さんはそこでも特に配慮事項などはなかったです。竹内さんが勤務しているサテライト(※下項参照)には運営事業者の常駐サポーターが支援をしていて、週一回30分の定期面談がありますので、それがお守り的な安心材料になっているというのは入社当時から伺っています。

 

竹内:いろいろな配慮を受けられるサテライトではあるんですけれども、自分から発信して何か配慮をしてもらったことはあまりないんです。そういった状態を実現できたのは、就労移行でプログラムを受けて、自分を見つめ直せたからこそだと思っています。配慮が必要ない状態まで、自分を引き上げた上で就職できましたから。その上で何かあった時に頼れる、というサテライトの支援体制が、それこそお守りのような安心材料として、精神的な支えになっていると思います。一般就労で再就職した当時も「実はうつ病なんです」と勤務先に言えていたら、もっと楽だったんだろうなと思います。今、オープンで(※7)働けるありがたさを知っているので。現在何か特別なサポートや配慮をしてもらっているわけではないんですけれども、さらけ出していられる心の軽さ、負荷のなさはあるのかなと思います。

 

g:西村さんや常駐サポーターの存在が拠り所となっているから、安心して働けると。

 

竹内:本当にお守りみたいな、何かあったら頼れる、身体を預けられるというか、気持ち的に支えになっていると感じます。

 

g:その安心感も、就労移行に通い障害者雇用に踏み切ったからこそですね。

 

竹内:おっしゃる通りです。お仕事の部分でも結構やりたいことは言えていて、翻訳の仕事がやりたい、チームリーダーをやりたいとか全部自分から言って形にしてもらっているので。入社一年目から割と発信はできていて、それを叶えてもらえているから今のキャリアがあると思っていますね。障害者雇用での就活を始めた時、当時の就労移行の担当スタッフの方が言っていたんですが、障害者雇用向けサテライトオフィスでサポートを受けつつ正社員雇用で働けるのは、障害者雇用の一番理想的な形だと言っていたんです。そういった職場だという点でアクセンチュアを選んだのもありますし、この安心感があるからこそ、今もここで働けていると感じますね。

※6)耳全体を覆う形状の防音保護具。もともと工事現場などで使われる物で防音効果が高く、大きな音が苦手な聴覚過敏の方が音から自分を守るのに使用します。

※7)障害を周囲に告知して働くこと。オープン就労。

今の就業環境に満足している様子の竹内さん。安心感のある環境で能力を発揮することができ、目標だった長期的に安定した就業を実現できています。


うつ病や精神疾患については、誰しも患う可能性があるとの認識が定着したにも関わらず、未だ偏見があり正しく知ってもらえていません。精神疾患による労災認定が過去最大を記録する中、残念ながら今後も精神疾患を患う人は急激には減らないでしょう。

精神障害者の雇用義務化以降、就労環境や雇用状況が進展しつつあることは、いち早く取り組み始めた企業を除き、まだあまり認識されていません。精神疾患を抱えた方々がコンディションを回復し、社会復帰のための環境整備が進む中、適切な就業環境でポテンシャルを発揮する人が増えています。精神障害者手帳を持って安心して働ける環境が拡大すれば、それに比例して偏見も解消され、障害理解も進んでいくものと期待しています。


【読者アンケートのお願い】
こちらから簡単なアンケートにお答えください。
チェックボックスは10問です。お時間はかかりません。