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gente vol.023 Interview:

渡辺 麻姫さん 株式会社ジェーシービー勤務/YouTuber:ロービジョン(黄斑部変性による視野欠損、低視力など)


やり方を知れば、できることはたくさんある

面白さを伝えたい

「スキーは思っていた以上に滑れるようになりましたし、ダンスもすごく楽しいです。私自身がやりたいことをやってみせることで、情報提供したいんです」と語る、渡辺麻姫さんはロービジョンの視覚障害者です。現在は会社員として働く傍ら、YouTuberという顔も持つ渡辺さん。せっかく視覚障害があるのだから、それでできることがあるのならやってみたい、と考え動画配信をはじめました。「私にとって当たり前のことでも、皆さんにとってそうじゃないのって、面白いじゃないですか。見えづらくても楽しいことはできるし、こういうやり方もあるんだよ、って発信したい。興味を持ってほしいんですよね」という渡辺さんに、いろいろとお話を伺いました。さらに渡辺さんが「過不足のない合理的配慮を受けられている」という勤務先で、一緒に働いている皆様にそれがどういうものなのか、伺ってきました。

やりたい気持ちは


g:渡辺さんの見えづらさは、生まれつきのものなんですか?

 

渡辺:物心ついた頃には見えづらさがあったと思います。両親が気づいたのが3、4歳の頃で、いつ発症したかはわからないから「≒生まれつき」みたいな感じです。母が遊んでいる姿を見て「ボールを目で追えてない」と思って眼科に連れていったみたいです。

 

g:見えづらさを自覚したのは、いつ頃か覚えていますか? 

 

渡辺:いつなんですかね。割と当たり前というか、例えば教科書を見るのにルーペを使わなきゃいけないのも当たり前だったので、 見えづらいのは自分の中のデフォルトになってしまっていて。人と違う、と意識したのは、小学5、6年生とか。「あさひちゃんは試験を受ける時、拡大鏡を使わなきゃいけないから別の部屋に行く」とかは皆わかっていて、 だからといって特別扱いはされなかった思います。けど小学校高学年から中学生ぐらいの頃は、自分自身の方がちょっと引け目に感じていたような気がします。なんで弱視学級(※1)に行かなきゃいけないのかなとか、行きたくなかったし。「人と違ってこれをしなきゃいけない」みたいなことが嫌だな、と感じていた時期もあったと思います。

 

g:学校生活自体はいかがでしたか?環境の整わない中、サポートを必要とする場面が多くて困る、などはありませんでしたか?

 

渡辺:頼まないと何かができない、というより積極的になれなかった気がします。例えば理科の実験を4人一組でやるのに、見えにくいと時間がかかっちゃうし「あの道具を持ってきて、これとこれを繋げてください」と言われても難しかったりするので、周りで見ているだけになってしまったり。積極的に何かをするのが難しかったですね。自分自身が「できる」と思っていないから、やりたい気持ちがあっても積極的になれない。自信もないからやらない、手を挙げないとか。

 

g:「他の子と同じようにはできない」と、見えづらさによる意識があったんですね。 

渡辺:やり方を知らなかった、というのもあったと思います。電車も一人じゃ乗れないと思ってたし、パソコンもそうですね。アクセシビリティ(※2)を使えばいい、という発想がなかったし、両親もそういうノウハウを持っていなかったと思います。

【渡辺さんの見え方は?】

■視力0.04、乱視矯正用の眼鏡は持っていますが、「生活に欠かせないほど見え方を良くするものではない」とのことです。

■視野中心部に欠損があります。渡辺さん曰く「視野欠損部の色を脳内補完している」そうで、欠損部の見え方は「周囲の色に馴染んでいるが、物は見えていない」

■視野全体がぼんやりとしていて色の彩度が低い。中間色の判別が難しく、服や化粧品選びは人にサポートしてもらうそうです。

【できる】ひとりで歩く/文字を読むなど

周辺視野によって視力活用できますので、ひとりで行動できます。

【苦手】人と目を合わせる

視野中心部が見えにくいので、人と目を合わせるのは難しいです。

やり方はあると知って


g:高校は盲学校を選択したそうですね。

 

渡辺:高校も普通校に行くつもりだったんですけど、選択肢として学校見学に行ったら「自分がやれることの幅が広いな」と感じたんです。盲学校の方が楽しそう、と思いました。理科の実験も一人ひとつの実験道具でできますし、深く理解しながら勉強ができるんです。なので勉強の質がすごく良くなるなと思ったし、文化祭とか行事も自分が積極的に楽しめそうだと思ったので。 

 

g:自分の見え方に合った環境だったと。

 

渡辺:そうですね。入ってみたら「見えない世界で、どう工夫したらこういうことができるか」と学びました。それこそパソコンも「パソコンが触れない視覚障害者は生きていけない」と初回の授業で全盲の先生に言われて。私は全然できなかったのですごいショックで、それまでやろうという気もなかったし、そもそもできないと思っていたし。

 

g:でもそれは、実は方法を知らなかっただけだった、ということですね。

 

渡辺:知らなくて。だからそれが学べて、やりたいことを思いっきりできる環境はすごく楽しくて。学級委員とか文化祭実行委員とか、部活もバンドもやっていましたし、やってみたいことは何でもチャレンジできる環境で、留学もさせてもらいました。盲学校で視覚障害がどういうものなのか教えてもらって、自己理解にも繋がったし、自分には何ができて何が難しいのか、どうやったらできるのかをちゃんと言語化できるようになりました。


note.【視覚障害:盲とロービジョン

視覚障害には盲とロービジョン(弱視)があり、その約85%はロービジョンです。

 

【弱視/Low-Vision】
■視覚活用できる視力はあるものの、眼鏡等によって改善できない見えにくさがあり、生活に不便さが生じるものを総称してロービジョン(弱視)と呼びます。低視力や視野欠損/狭窄、眩しさを強く感じる羞明などさまざまな見え方があります。

 

【盲/Blindness】
■視力はほぼなく、視覚活用できない状態です。光も感じない全盲のほか、明暗の判別はつく光覚、目の前の物の動き程度は認識できる見え方も盲に含まれます。

選択肢を提供したい


g:現在は会社員として働く傍ら、YouTubeで動画配信をされていますよね。

渡辺:視覚障害って、ある意味面白い世界だなと思うんです。障害の有無に関わらず、見えづらくても楽しいことはできるし。それは自分にとって当たり前だけど、他の人からしたら驚くべきことだったりして、人にとって当たり前じゃないって面白いじゃないですか。その面白さを伝えたいんです。

g:視覚障害について知ってほしい、というのとは違うんですか?

渡辺:知ってほしくはありますけど、私は「社会的にこうあるべきだ」と訴えたい訳ではなくて、興味を持ってほしいんです。あまり知られていないこと、勘違いされていることって多いと思うので。歩み寄るきっかけであったらいいなとか、視覚障害の人を知るきっかけであったらいいなという気持ちはあって、お互いの距離を縮められるようにありたいと思っています。

 

g:編集も全て自分でしているんですか?

 

渡辺:できます。一人で全部できますけど、今は仕事をはじめて忙しいのもあって、友達とか周りの人にある程度カットしてもらってから、最後は自分で仕上げています。

 

g:どんな動画を配信しているんですか?

 

 

渡辺:チャンネルのテーマは「障害の有無にかかわらずワクワクできる」です。視聴者の方がワクワクするものってなんだろう?と思って、チャレンジ動画とか「初めてどこどこ行ってみた」みたいな動画を配信してみたんですけど、すごく反響が大きかったです。当事者の方にも共感してもらえるし、見える方からも「こういう感じなんだね」と感想をいただいて、「こういう動画は皆が見て共感してくれるんだ」と感じられました。せっかく視覚障害があるので、それで何かできる事があるならやりたいんです。自分だからできることで視聴者の方を勇気づけたり、ワクワクしてもらえればいいなと思って。

g:視聴者からのリクエストなどによって、何かにチャレンジすることもあるんですか?

 

渡辺:例えば「メイクに困っているので、視覚障害者のメイク事情について知りたい」という声をいただいて、じゃあ私がブラインドメイクを習って、それを動画にしてみようという場合もありますし、「ブラインドダンスにチャレンジしてみませんか?」とお声がけをいただいて撮った動画もあります。そういうのも全て、自分がやっていて楽しいと思えるものを発信しています。

 

g:「ブラインドメイク」というのは、どういうものなんですか?

 

渡辺:筆やブラシではなく、指を使ってメイクするんです。ファンデーションやアイシャドウも、指先につけて馴染ませたり。以前はメイクの仕方がわからなくて、適当にメイクしてしまっていたんですけど、ブラインドメイクができるようになってからは楽しいですね。メイクでちょっと可愛くなったのはわかるので(笑)。人にも褒めてもらえるし。

 

g:それはうれしいし、楽しいですよね。

 

渡辺:ただ、化粧品を買うのは難しいんです。色が見えづらいので、好みの色を探すの難しくて。だから友達と一緒に買い物に行って選んでもらったり、自分に似合う色の知識はあるので、それを伝えて人に選んでもらったりしています。何でもそうなんですが、見えている人と同じようにやるのは難しいのかもしれないけど、 自分なりに楽しめることはいっぱいあるんです。

 

g:料理をする動画もありましたが、どうしても火や刃物を使うのは危ないんじゃないか、と思ってしまうのですが。

 

渡辺:私の見え方だとできますね。動画の最後でお好み焼きがバラバラになっちゃったのは、私のスキルの問題(笑)。全盲でも料理している友達もいるので、見えなくてもできると思いますし、知っているからこそ「できないわけがない」と思っていて。やり方は多少変わると思いますけど、何でも「どうやったらできるかな」と考えてやっています。私の場合、物を持っている手と包丁の位置関係で「こうしていれば自分の手を切ることはない」という感覚があるので、別に怖くはないです。火はある程度見えていますし、視覚も活用しているんですけど、それ以外の部分も活用しています。このくらいの時間火を通せばいいだろうとか、食材の温まり加減でもわかります、結構。

 

g:何事においても目に頼らない、自分なりのやり方があるんでしょうね。それはもちろん見える人のやり方とは違うでしょうけど。

 

渡辺:そうしていると思います。ブラインドスポーツも、大半が視覚以外で補完して何かをやるものですし。

 

g:確かに。やり方を変えればできることはたくさんありますね。

 

渡辺:私自身、小中学校の時はやり方がわからない、知らないからできなかったことがたくさんあったと思っていて。だから当事者にはそういう情報提供をしたい気持ちもすごくあります。

 

g:やり方を知っていろいろとチャレンジできるようになったから、今度はそれを伝える側にまわった、ということなんですね。

 

渡辺:そうですね。やり方を知っているだけで、生活の質って全然違うと思うんです。だからそれを知ってほしいなと思って。 あとは障害によって引きこもっちゃう人、ネガティブな気持ちになってしまう人も多いと思うんですけど、もっとポジティブな気持ちで楽しんでいいんだよ、というのを伝えたいんです。自分自身がそうだったなというのもありますけど。小中学校の頃は「そうしている視覚障害の人」が周りにいなかったので、できる前例を知らなかったし。前例があることによって「やってみたい」と思えるので、その前例になれたらいいなとは思います。当事者じゃない人には「視覚障害って面白いな」と思ってもらって、心の距離を近くしてほしいと思っています。

 


「見えにくいからできない」のではなく、他のやり方があるのにそれを知らないだけ。渡辺さん自身がそうであったからこそ、その言葉には説得力があります。
見えている人が渡辺さんの見え方を想像するのは難しく、その世界がどんなものかはわからないにも関わらず、無意識に自らを基準として「これはできないだろう、難しいだろう」と決めつけてしまっていないでしょうか。人と違うやり方、違う感覚の使い方をすれば、できることはたくさんあります。「どうすればできるのか」を想像する力は、当事者だけでなく周りにいる人こそ持つ必要があるのだろうと感じました。


【知られていない「見えにくい人」のこと】

■振るだけじゃない?白杖の使い方

「周辺視野で結構見えているので、白杖はなくても歩けます」と渡辺さんが言うように、白杖を必要としない視覚障害者は多くいます。渡辺さんも白杖を持っていますが、安全確認のために振りながら歩きはしません。視覚活用できる人が白杖を持つのは、気づいてもらうため。「お店や人混みなど、視覚障害者だと周囲にアピールする必要がある時、気づいて欲しい時に持ちます」と渡辺さん。白杖にはこのような使い方もあります。

 

スマートフォンは必需品

「白杖で手がふさがって、スマートフォンを使えないほうが困ります」という渡辺さん。もはやスマートフォンは視覚障害者の生活に欠かせません。ロービジョンの方々にとっては店での買い物やメニューを見る時など、撮影して拡大表示できるカメラは重宝します。視覚活用が難しい方々も、音声読上でニュースを聞く、音声認識で文字入力する、ビデオ通話で代わりに物を見てもらうなど、さまざまな場面で活用しています。

 

けっこう多い?「点字読めません」

 視覚障害者=点字のイメージも根強くありますが、実は点字を使える人は視覚障害者の一部にとどまります。パソコンなどデジタル機器の発展により利用機会も減少していますが、視覚障害者文化、文字として残していくべきという見方もあります。


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